Notebook LMの音声要約機能を試してみた──教育現場への応用可能性

1. はじめに──音声要約との出会い

ゴールデンウィーク。ゆったりした時間が取れるこのタイミングで、普段気になっていた新しいツールを試してみた。Googleが提供する生成AIのひとつ、「Notebook LM」に搭載された音声要約機能である。

Notebook LMは、文書を読み込ませることで、AIがその内容を理解し、質問応答や要約、整理といった機能を提供するツールだ。これまではテキストベースのやり取りに限られていたが、2024年末のアップデートにより、音声出力機能が加わった。この音声要約機能は、文章の内容をポッドキャスト風ナレーションとして出力する。この音声概要が4月30日にアップデートされて日本語対応したとのことでさっそく使ってみた。

自分がブログとして記録していた2日分の文章を読み込ませ、実際に試してみたところ、その性能に驚かされた。話し言葉の自然さ、イントネーションの緩急、フィラー(間の取り方や相槌)、言いよどみまでもが自然に再現されており、機械音声とは思えないほど“人間っぽい”仕上がりだった。

もちろん、漢字の読み間違いといった細かい誤差はある。しかし、それを踏まえてもこの機能が持つ可能性は極めて大きい。特に、教育現場における応用可能性──とりわけ国語科の授業での活用には大きな期待が持てる。

本稿では、Notebook LMの音声要約機能を通して感じた利便性と、国語科の教育現場での活用について、実践的・理論的両面から掘り下げてみたい。

Notebook LM 音声概要の操作画面
Notebook LM 音声概要の操作画面

2. Notebook LMとは──生成AI時代の情報整理ツール

Notebook LM(Language Model)は、Googleが開発した生成AI搭載のノート支援ツールである。従来のメモアプリとは異なり、AIが文書内容を読解・要約し、ユーザーの問いかけに応じて回答を提示する。特筆すべきは、複数の文書を同時に読み込み、それらを横断的に参照したうえで内容を統合できる点だ。

ユーザーは、以下のような機能を活用できる:

  • ノートの要点抽出
  • 質問応答
  • タグ付けと構造整理
  • 文章生成補助(草案づくり)
  • 音声による要約と説明

音声要約機能は2024年12月以降のアップデートで追加された新機能で、従来の要約文をナレーション風に読み上げる。使い方としては、Notebook LM内に保存されたドキュメントを開き、「音声概要」というコマンドを選ぶだけである。


3. 音声要約を使ってみた感想──これはもはやナレーションでは?

今回、自分が書いた2日分のブログ記事(計約4,000文字)をNotebook LMに読み込ませ、「音声概要」をポチッとするだけだ。

生成された音声は約6分ほどで、以下の点が特に印象的だった:

  • イントネーションが自然で、棒読み感がない
  • 「えーっと」や「あのですね」といった、会話の“ゆらぎ”を含んでいる
  • 要点の取捨選択が的確で、冗長にならない
  • 声のトーンやスピードに緩急がある
  • 冗談やユーモアの挿入も可能(プロンプトで指示した場合)

これにBGMを加えると、完全にラジオ番組のような雰囲気になる。音声による情報伝達という点では、PodcastやYouTubeのナレーションに匹敵する完成度だった。

↑ゴールデンウィーク2日分のブログを打ち込んでジェレートしただけでこのクオリティ。

これを教育現場、とくに中学校の国語科の授業に落とし込むとどうなるか。以下、思いつく限り検討していく。


4. 国語科の授業での活用アイデア

4.1 音声化によるアウトプット支援

生徒が書いた感想文や小論文をNotebook LMに読み込ませ、音声で要約させる。このプロセスにより、以下の効果が期待できる:

  • 書き手の意図が“声”として再構成されることで、読み手=聞き手への伝達意識が高まる
  • 生徒自身が「自分の言葉を、他者がどう聞くか」を客観的に捉えられる
  • 音声で聴くことで、論理の飛躍や構成の不自然さに気づきやすくなる

特に、発表活動が苦手な生徒にとって、機械音声が自分の書いた文を代わりに“話してくれる”という仕組みは、大きな心理的支援になる。

4.2 教師による音声教材の簡易生成

Notebook LMは、教師側の教材準備にも役立つ。たとえば:

  • 授業で扱う文章のあらすじを音声化して、生徒に事前提示
  • 学習の振り返りを文章でまとめ、それを音声で流す
  • 複数の作品(例:短歌と詩)を横断的に解説するナレーションを生成

これにより、教師の説明負担を軽減しつつ、多様なメディアを組み合わせた授業が可能になる。

4.3 学習記録のナレーション化

生徒のポートフォリオや探究学習の成果をNotebook LMにまとめさせ、その後にナレーションとして出力することで、学びの記録を“発信型”に変換できる。これは以下のような活動に繋がる:

  • 朝の会や終わりの学活での「今日の学び」放送
  • 校内放送や文化祭での音声展示
  • 家庭との共有用音声レポート

5. Notebook LMが教師を支援する技術的側面

5.1 負荷分散と効率化

授業準備・採点・教材研究・行事対応……現代の教師が直面する業務は多岐にわたる。Notebook LMはその一部を代替・補助できる。

  • 複数教材の構造比較(例:2つの物語文の展開の違い)
  • 文章の難易度チェックと要約
  • 生徒の書いた文章を複数読み込んで傾向を分析

教師の“判断力”が求められる領域を残しつつ、前段階の“準備工程”を自動化できる点が強みである。

5.2 ナラティブな授業の支援

国語の授業では、「物語る力」が重要視される。Notebook LMの音声生成機能は、文字情報を“語り”に変換することで、物語性やリズムを持たせることができる。

  • 古典の現代語訳をリズミカルな音声で聴く
  • 探究のプロセスを“自分の物語”として音声に
  • 実際の作家インタビュー風の再構成

これにより、生徒の学びが物語的に再編され、記憶の定着率が高まる。


6. Notebook LMの限界と課題

もちろん、万能ではない。

  • 誤読や読み間違いのリスクがある
  • ニュアンスの再現には限界がある
  • 学習者が内容を鵜呑みにするリスク

これらは、教師が適切にナビゲートすることで回避可能だが、「補助ツール」であることを前提に設計しなければならない。

また、情報の信頼性・プライバシー保護の観点から、校務用端末での使用や、クラウドとの接続制限など、校内インフラとの整合も検討課題である。


7. おわりに──“聞く”時代の国語科へ

「書く」「読む」「話す」「聞く」。これら四技能がバランスよく育つことが、国語科に求められている。

Notebook LMの音声要約機能は、単なる“便利機能”ではなく、「聞く力」「話す力」を育む上での強力な補助線となる可能性を秘めている。

自分の言葉が「声」になり、他者に届く。友達の考えを「音」として受け取る。そうした行き来の中に、これからの“新しい国語”があるのではないか。

生成AIの進化が、教育を“もっと人間らしく”するための鍵になるかもしれない。