ネットラジオ黄金時代から音声メディアの復権

1. ねとらじというネットラジオがあった

20年以上前、インターネットが今ほど動画に支配されていなかった時代、「ねとらじ」というネットラジオがあった。「26歳ふりぃたぁ」「永井ラジオ」「むてきんぐ」「黒豆」「幸楽」……懐かしい名前が次々と蘇る。リスナー数の多かったDJたちの配信を夜な夜な聴いていた。

のちにlivedoorに移管され、自分は徐々に離れていったが、あの時代の自由で混沌とした雰囲気は今も記憶に焼きついている。裏ねとらじDjスレ…恐かったなぁ…。

2. 海外のネットラジオと音楽の海

ねとらじより前には、Winampを使って海外のラジオを聴いていた。さらに、PCを起動せずにネットラジオを聴けるという変なガジェットを買い、70年代ハードロック、Jazz、ボサノバ、レゲエ、クラシック、AOR、60年代ブルーズ……とにかくあらゆるジャンルを聴き漁っていた。

CDを買っていたら金がいくらあっても足りなかったから、ネットラジオは神だった。無料で無限に広がる音楽の世界は、自分の価値観を大きく変えた。

3. 個人ラジオの魅力

ねとらじが落ち着いた頃、個人WEBスペースで配信されていた「四畳半ヴギ」や「吉田のあそこ」もよく聴いていた。吉田さん、今何をしているのだろう。あのまったりとした個人的な語りがとても好きだった。

やがてライブ動画配信へと移行し、美しい映像とゆったりとした雰囲気のサイトになっていたが、時代が彼に追いつくにはまだ時間がかかった。

4. Peercastの時代と人生の暗黒期

そしてPeercast(ペカ)の時代がやってきた。2chのスレでURLを見つけて聴きに行ったり、見に行ったり。動画生ライブもゲーム実況も、ペカが先駆けだった。

ペカレコーダーを駆使し、パソコンは24時間起動しっぱなし。好きな配信者の動画を自動録画し、どっぷりと浸かる日々。気づけば人生終了しかけていた。懐かしい、そして恐ろしい日々だ。

あの頃、2chの晒しスレは本当に恐かった。シコキャスもひどいもんだったなぁ。

5. 動画全盛時代へ

その後、Stickam、JustinTV、ニコニコ動画、Ustream、ツイキャス、YouTubeといった動画サービスが次々と登場。2010年頃には、完全に「世は動画全盛時代!」という感じになった。

27歳の時、「このままネットの世界で遊び倒すことが俺のしたいことなのか?」と狭い部屋で鬱々と考えた。ボイスチャットを切ると、目の前には現実が広がる。鏡を見れば、そこには冴えないおっさん。

金はあるが、それだけ。生きている実感はない。ネトゲをし、Peercastを見て、天鳳で朝まで遊び、昼過ぎに起きてまた同じことの繰り返し。

そんな日々を何年か過ごした末、ある出来事をきっかけに、人生と向き合う決意をした。ペカの時代は、まさに人生の暗黒時代だった。

6. 40代になり、時間の有限さを知る

動画コンテンツが溢れた世界で10年以上過ごし、ようやく生活との距離を取れるようになった。40歳を迎えると、人生の有限性を強く感じるようになる。

  • 読みたい本
  • 行きたい場所
  • 知りたいこと
  • 話したい人
  • 触れたいもの
  • 見たいもの
  • 聴きたい音
  • そして何もしない時間を持つこと

取捨選択をすべき時期に来た。

7. 読書との向き合い方

30代までは「読書は数だ!」と年間150冊を目標にしていた。しかし40代になって気づく。インプットしても、どんどんこぼれ落ちていくのだ。とにかく物量作戦は10代〜20代までな気がする。もちろん数多く読んだほうが読まないよりは良いが、数を目標にすることは”違う”という結論に至った。

40代の読書は、「これまで積み重ねた知識とのセレンディピティ(偶然の出会い)を楽しむ時期」なのではないか。

8. 取捨選択を意識する

  • 本当にInstagramを見たいのか?
  • 本当にこの食べ物を食べたいのか?
  • 本当に子供よりスマホを優先すべきなのか?
  • 本当に動画を見てダラダラしていていいのか?

40代は惰性を断ち切るべき時期。

タイムトラッキングアプリで時間の使い方を計測した結果、YouTubeやSNSに膨大な時間を費やしていたことが判明。そこで、子供と同じ空間にいるときはスマホを見ないルールを決めた。

こうしたちょっとしたことを意識することで、生活は確実に変化した。

9. そして、再び音声メディアへ

気づけば、ここ3年は動画よりも音声コンテンツを重視している。

Podcastで聴いている、聴いていたのは、

  • 「Backspace.fm」
  • 「Rebuild」
  • 「ドングリFM」
  • 「うちあわせCast」
  • 「便所のつぶやき」
  • 「ブックカタリスト」
  • 「COTEN Radio」
  • 「のらじお」
  • 「ごりゅごcast」

車の運転中、料理中、寝ながら……好きなときに、好きな雰囲気で楽しめる。

10. 個人性のあるメディアの価値

今のネット検索は、SEO対策された均一化されたサイトばかり。情報がのっぺりしていて、面白みに欠ける。本当に知りたいのは、「個人の体験や感想」なのだ。

11. 終わりに

20年前に心躍った音声メディアが、2周まわって再び自分の人生に舞い戻ってきた。音声メディアは、ながら作業を許し、動画ほどの中毒性もない。そして何より、個人性を持ち込んでくれる。

情報の渦の中で、自分とメディアの距離を取り戻せる。これは、実に素晴らしいことではないだろうか。この流れが、また次の10年後にはどう変わっているのか。未来の自分がどんなメディアと向き合っているのか。そんなことを想像しながら、今日もお気に入りのPodcastを再生する。